剣と日輪
公威は十時半に新潮社の小島加代子に、
「豊饒の海」
の原稿を渡す約束をしていたが、それは叶わぬ次第となった。公威は仕事部屋に戻ると、原稿入りの封筒と、辞世の短冊(たんざく)、鎧通、短刀、要求書、檄文の垂幕の入った皮製の茶色のアタッシュケースを両手に持って来た。家政婦に、
「豊饒の海」
の原稿を渡す約束をしていたが、それは叶わぬ次第となった。公威は仕事部屋に戻ると、原稿入りの封筒と、辞世の短冊(たんざく)、鎧通、短刀、要求書、檄文の垂幕の入った皮製の茶色のアタッシュケースを両手に持って来た。家政婦に、