剣と日輪
「十時半に新潮社の小島さんって女性が訪ねて来ることになっているから、渡しといてくれ」
 と言付けて、ゆっくりと玄関を出たのである。
 梓は離れの居間で炬燵に入ったまま、右腕のアタッシュケース、左腰に軍刀(ぐんとう)拵(ごしら)えの関の孫六を吊るした公威の後姿をぼんやりと見送っていた。
(又訓練にでも行くのかな)
 梓には理解不能な、長子の勇姿である。
(怪我でもせねばよいが)
 やれやれっと梓は横になった。そして深く息をついたのだった。
 公威がコロナの運転席後ろの後部座席の前に立つと、中の四名は敬礼をした。公威が敬礼を返すと、運転席から小賀が声をかけた。
「ゆっくり歩かれましたねえ」
「余裕あればこそさ」
 公威は書店主人の舩坂弘氏寄贈の、
「関の孫六」
 を手馴れた手付きで抱えながら、乗車した。
「命令書は読んだろうな」
 古賀、小川、小賀は、
「はい」
 と力を込めた。
「よし。出発だ」
「はい」
 小賀がアクセルを踏むと、四十一年型コロナはゆっくりと前進をしたのだった。

 午前十時。防衛庁共済組合の市ヶ谷会館三階GH室には、楯の会会員三十三名が集結していた。楯の会定例会出席の招集を受けた彼等は四期生(昭和四十四年七月自衛隊体験入隊生)、五期生(昭和四十五年三月自衛隊体験入隊生)が主であり、班長、副班長は未招集だった。
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