剣と日輪
 となっている。
(何これ)
 小島は混乱した。豊饒の海が今回で終局を迎えるなどと、一言も聞いていない。公威が最終回を前以て通知しなかった例は、無かった。
(これじゃあ入稿できない)
 小島は公威と連絡をとるべく、右往左往し始めたのだった。
 公威は車中で、
「俺の命令は絶対だぞ」
 と小川、古賀、小賀に念を押した。
「はい。絶対守ります」
 と頼もしい応えが、三人からあった。公威は、
「宜しい」
 と顔を綻(ほころ)ばせ、快弁を振るう。
「十年前に憂国を書き、五年前に自作自演で映画化して切腹シーンを撮った。豊饒の海を終えた今日、これを実演することになるとは思わなかった」
「人生ってそんなもんでしょう」
 必勝はぽつりと開口した。
「そんなもんかあ」
 公威は助手席に左手をかけた。
「後三時間で死ぬなんて本とかなあ」
「本当ですよ」
 必勝は振り返り、自慢の歯列(しれつ)を剥(む)いた。
「そうだろうなあ」
「先生」
 首都高速を外苑口で降り小賀が、
「このままでは予定より大幅に早く着きます」
 と予想した。
「じゃあ神宮外苑を一周しよう」
「分かりました」
 公威は更にのっている。
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