剣と日輪
「何か高倉健の東映やくざ映画と、全然違うな。映画ならここで唐獅子牡丹の音楽が流れ、悲壮感が漂うんだがなあ。俺達は明るいなあ」
「いっちょ唄いますか」
「そうするか」
 必勝にのせられ公威は十八番(おはこ)の、
「唐獅子牡丹」
 を大声で唱歌し始めた。必勝も小川も古賀も小賀も、次第にハモっていった。車内には、
「唐獅子牡丹」
 の愁吟(しゅうぎん)と熱気が充満していったのだった。

 午前十時四十五分。市ヶ谷会館に入ったサンデー毎日記者徳岡孝夫は、玄関に佇立している楯の会隊員に名乗りをあげた。徳岡記者は、
「田中さんと倉田さんですか」
 と問うた。
「いえ、違います」
 両名が否定したので、徳岡記者は肩透しをくらったような面差しになった。
「今日三島さんから此処へ来るよう言われて来たんだが」
 徳岡記者が水を向けたが、
「隊員は三階のGH室に集合しています」
 という受け応えしかない。
「そうですか」
 徳岡記者は已む無くGH室に顔を出し、
「田中」
「倉田」
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