剣と日輪
 の両名を探したが、居なかった。
(どういうことだ)
 徳岡記者が三階ロビーで途方に暮れていると、先程玄関で応対した両名がやって来た。二人は一礼すると、
「身分証明書を見せてくださいませんか」
 と慇懃(いんぎん)に問いかけた。徳岡記者が身分証明書を提示すると、二名の隊員は各々、
「田中健一」
「倉田賢司」
 です、と名乗った。
「先程は失礼しました。十一時を過ぎたら接触せよとの先生の厳命でしたので」
 両隊員は先刻の非礼を詫びた。時刻は十一時五分である。
 田中健一が徳岡記者に、封筒を差し出した。
「それでは失礼します」
 田中と倉田が玄関に戻るや、徳岡記者は急いで開封した。中身は公威、必勝、古賀、小賀、小川が東条会館で撮った楯の会制服姿の記念写真、檄文の内容、そして依頼文だった。
 徳岡記者が檄文と公威の私信を読み終えて、
「唖然」
 と考え込んでいると、伊達記者もやって来た。
「徳岡さん、読みました?」
 伊達記者は蒼褪(あおざ)めている。
「読んだが一体何が起るのか」
「分からない」
 両記者が慄然(りつぜん)となった公威の私信とは、次のような内容だった。
「小生の意図は同封の檄に尽くされております。この檄は同時に演説要旨ですが、それがいかなる方法に於いて行われるかは、まだこの時点に於いて申し上げることはできません。何らかの変化が起るまで、このまま市ヶ谷
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