剣と日輪
「十一時三十分までに集めろだと?」
 吉松一佐は腕時計の針を追った。十一時二十分にならんとしている。
「此処を何処だとおもっとるんだ。自衛隊の基地内で、こんな事が許されてよい訳がない」
 山崎陸将補は、憮然となった。
「直ちに総監救出に向う」
 山崎陸将補と吉松一佐は、即刻救出作戦を練った。沢本三佐から、
「賊は五人」
 と報告を受けると、総監室両隣の幕僚長室と幕僚副長室のドアを強行突破する議に決した。
 総監室左側の幕僚長室には木刀を片手に握った原一佐、中村董正二佐、川辺春夫二佐、笠間寿一二等陸曹、磯部順蔵二等陸曹が決死隊を組んで急行し、総監室右側の幕僚副長室には、山崎陸将補、吉松一佐、清野不二雄一佐、寺尾克美三佐、高橋清三佐、水田栄二郎一尉、菊地義文三等陸曹が入った。
 二正面から体当たりの物音が鳴り響く。必勝はバリケードの維持に懸命であったが、先ず幕僚長室側の扉が突破され、原一佐等五名の入室を許してしまった。
 ほぼ同時に幕僚副長側のドアも蹴破られ、山崎陸将補等七名も総監室に雪崩込んだ。
 必勝が短刀を抜いた。公威が関の孫六を上段に構えた。
「あっちを頼む」
 公威にそう指示された必勝は原一佐隊を公威に任せると、山崎陸将補隊相手の防戦に取りくんだ。
 山崎陸将補が必勝を越えて、
「何て事をする。話せば分かるではないか」
 と五・一五事件で非命に斃れた犬養毅首相の今際の台詞紛いの問い掛けを、公威の背に浴びせた。
「我々の邪魔をするな」
 公威は振り向かずに、どすを利かせた。
「出ろ。さもないと総監を殺すぞ」
 小賀が益田総監の口を左手で塞ぎ、ドスを突きつけている。
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