剣と日輪
 田中は、
(駆けつけねば)
 と市ヶ谷会館を出ようとした。特に必勝と同じ小林荘で生活している第一班班員達は、必勝も隊長と行動を共にしているに違いないという信念がある。田中等数名がGH室を飛出そうとすると、
「動くな!」
 警視庁の係官が、拳銃を田中に突きつけた。
「此処を出ることは許さん」
 この瞬間、楯の会隊員達は全てを覚った。
(隊長は決起したのだ)
「どけえ」
 特殊警棒を振り回し出て行こうとした田中、西尾俊一等は直ちに警官達に取り押さえられ、手錠をかけられた。
「此処を出て行く者は、公務執行妨害で逮捕する!」
 警官の有無を言わさぬ態度、更には自衛官幹部達の大目玉に、楯の会隊員達は渋々ながら従順にならざるを得なかったのである。

 市ヶ谷駐とん地内の全自衛官に、
「十二時までに本館前に集合するように」
 との放送がなされたのは、十一時四十分である。柳原業務隊総務課長のアナウンスであった。
 放送を傾聴した公威は、益田総監に頭を垂れた。
「あと二時間ご辛抱ください。これより自衛官にどうしても訴えねばならないことがあるのです。無事終れば決して総監を害すような真似は致しません」
 益田総監は、黙認するしかない。彼には公威が自衛官に何を訴えるのかが、想像できる。
 続いて必勝が要求書を読み上げた。
(この二人は死を決している)
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