剣と日輪
 朗々と要求書を読み上げる必勝と、傍らで直立不動している公威、そして古賀、小賀、小川。
(丸で終戦時の軍人達のようだ)
 終戦の日この部屋で陸軍大臣阿南惟幾(あなみこれちか)は、
「大罪」
 を謝して屠腹(とふく)したという。あれから二十五年。日本人はエコノミック・アニマルと化し、共産主義・無政府主義者が大手を振って、
「革新・左翼」
 を自称してのし歩く。愛国者は、
「危険だ」
「右翼」
 と罵られ、軍人は、
「平和憲法」
 という名のアメリカ人が日本を属国化すべく作成した悪法の下、
「自衛官」
 という聞いたこともない職名を名乗らされ、
「人殺し」
 同様の白い目で、共産主義や無政府主義に洗脳された愚民に扱下(こきおろ)ろされている。自衛官自体も存在価値を見出せないでいるのが、
「昭和元禄」
 の世相だった。
 公威がこれから命を張ってやろうとしていることは、本来政府や益田等自衛隊首脳がやらねばならないことだった。益田総監は己を恥じた。
 十一時五十五分。必勝、小川、古賀の三名は総監室からバルコニーに通じる三つの窓を開いて、外へ出た。皆公威直筆の、
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