剣と日輪
昭和十六年の初夏、清水は、
「文芸文化」
の同人蓮田善明、池田勉、栗山理一と共に伊豆修善寺の新井旅館に宿泊して、編集会議を開いた。席上三人は清水から、
「わしの教え子の作品じゃ。読んでみてくれんか」
と分厚い大判の原稿を回読させられたのである。
三人は気乗り薄で読み始めたが、目読後感歎し、
「本当に十七歳の中学生が書いたのか」
と清水に疑念を向ける文人さえあった。
「間違いない。この子が書いた」
清水の太鼓判に一座は感動している。
「ようし。この日本のラディゲの物語を、早速載せようじゃないか」
蓮田が提言すると、反対者はおらず、編集者全員一致で、
「花ざかりの森」
は誌面を飾る容認を得たのである。
清水は眼鏡の奥の瞳を綻ばせながらも、
「載せるのはええが、一つ問題がある」
と広島訛りの抜けない猿顔の眉間を険しくした。
「何で?」
栗山が問うた。
「うん。実は平岡君の父君が農林省の役人でな。平岡君をどうしても官僚にしたいらしいんじゃ。彼の話では、父親は大の文学嫌いで、平岡君が折角書いた詩や小説を発見してはびりびりと破り捨ててしまうんだと」
「そりゃあ大変だ」
「文芸文化」
の同人蓮田善明、池田勉、栗山理一と共に伊豆修善寺の新井旅館に宿泊して、編集会議を開いた。席上三人は清水から、
「わしの教え子の作品じゃ。読んでみてくれんか」
と分厚い大判の原稿を回読させられたのである。
三人は気乗り薄で読み始めたが、目読後感歎し、
「本当に十七歳の中学生が書いたのか」
と清水に疑念を向ける文人さえあった。
「間違いない。この子が書いた」
清水の太鼓判に一座は感動している。
「ようし。この日本のラディゲの物語を、早速載せようじゃないか」
蓮田が提言すると、反対者はおらず、編集者全員一致で、
「花ざかりの森」
は誌面を飾る容認を得たのである。
清水は眼鏡の奥の瞳を綻ばせながらも、
「載せるのはええが、一つ問題がある」
と広島訛りの抜けない猿顔の眉間を険しくした。
「何で?」
栗山が問うた。
「うん。実は平岡君の父君が農林省の役人でな。平岡君をどうしても官僚にしたいらしいんじゃ。彼の話では、父親は大の文学嫌いで、平岡君が折角書いた詩や小説を発見してはびりびりと破り捨ててしまうんだと」
「そりゃあ大変だ」