剣と日輪
 たった一発で都市を消滅させた恐るべき威力の新型爆弾が、帝都に落ちたらどんな惨劇が繰り広げられるであろうか。都民は死刑執行を待つしかない死刑囚の気鬱(きうつ)を共有し、自棄になっていた。
 十四日の酉(とり)の刻、昼間米軍機が天際からばら撒いていった宣伝ビラの原文のコピーを、梓が持ち帰り、
「あの伝(でん)単(たん)は本当だ。日本はポツダム宣言を受入れ、降伏したんだ」
 と口惜しげに妻子に打明けた。縁側に侘しげに坐しながら夕焼けを眺める梓の手から、公威はそれを奪うと、速読した。
「確かな筋から聞いたから、間違いない」
 梓はネクタイを緩(ゆる)めた。
「本当なの?」
 美津子と千之も、写しを覗(のぞ)き込んだ。
「本当、だな」
 公威は呟いた。
「明日ある重大な放送って、これのことだったのか」
 千之が気の抜けた声調で、頷いている。
「これからどうなるの?」
 美津子は不安であった。
「日本が負けたら、男は殺され、女は陵辱(りょうじょく)される」
 と予(かね)てより聞き及んでいる。
「分からん」
 梓は寂乎(じゃっこ)たる声音(こわね)であったが、
「だが、どうなろうと、お前達は俺が守る」
 と断言した。
「お父さんを信じましょう」
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