剣と日輪
 野田は、
「日本文学史に残る橋渡しかもしれない」
 とオーバーな身振りを交えながら、快くさっさとペンを走らせてくれた。
「有難うございます」
 公威は中学生の様な瑞々(みずみず)しい礼をすると、晩秋の日本橋界隈へ出た。
 巷は復興の活気と無法と退嬰(たいえい)が蔓延(はびこ)っている。街娼(がいしょう)が同乗した進駐軍のジープが、我物顔で大通りを走行し、闇市が遠近(おち)彼方(こち)に立っていた。無秩序の街頭を、角帽(かくぼう)で遊歩する。   
 高層建造物はB29に一掃され、瓦礫(がれき)が所々放置されている。横文字が氾濫(はんらん)し、日本語も左から書く様になった。
(何でもアメリカナイズされていく)
 嘗(かつ)ての敵国は今や宗主国である。横行する白、黒、黄色の、
「アメリカン」
 達は征服者だった。米軍進駐を歓迎した同(どう)胞(ほう)などいないだろう。日米は、
「占領国」
 と、
「被占領国」
 という主従となって、この狭小(きょうしょう)な島嶼(とうしょ)に居住している。
「和(あまない)」
 という大和精神が、この国情を辛うじて治めていた。
(これも御稜(みい)威(つ)なのか)
 公威は、そう得所(とくしょ)せざるを得なかった。   
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