剣と日輪
清水は帰東すると、学習院官舎に公威を呼んだ。清水は学習院学内の青雲寮舎監をしており、一日置きに宿直していた。公威はよく清水のいる舎監室に入浸って、古典の手解きを受けている。清水は褒め上手で、生徒の評判は上々だった。公威は、清水の学識よりも人柄に惹かれていた。無論恩師として敬慕の念は甚だしい。
清水は、
「花ざかりの森」
をべた褒めし、
「文芸文化の九月号から、四回にわたって連載したい、ええか」
と問質した。公威に異存が有る筈がない。快諾すると、清水は喜色満面で、ペンネームの話を持ち出したのである。公威はペンネームなぞ面映かったが、
(大人四人がそこまで自分に肩入れしてくれているのか)
と感銘を受けた。
ただ、
「ゆきお」
という平仮名はどうもいただけない。公威はメモ帳に、
「由紀雄」
と考案して清水に提示した。
「ゆきお、では軽すぎます。この漢字を当ててもいいでしょうか?」
清水は眼鏡のずれを直して、しげしげと一読した。
「おう、ええぞ。併しちいと固いな」
清水は紙片に、
「由紀夫」
と認めた。
「どうじゃ。この方が親しみやすいし、憶え易い。第一書き易くないか?」
公威は、
「夫」
清水は、
「花ざかりの森」
をべた褒めし、
「文芸文化の九月号から、四回にわたって連載したい、ええか」
と問質した。公威に異存が有る筈がない。快諾すると、清水は喜色満面で、ペンネームの話を持ち出したのである。公威はペンネームなぞ面映かったが、
(大人四人がそこまで自分に肩入れしてくれているのか)
と感銘を受けた。
ただ、
「ゆきお」
という平仮名はどうもいただけない。公威はメモ帳に、
「由紀雄」
と考案して清水に提示した。
「ゆきお、では軽すぎます。この漢字を当ててもいいでしょうか?」
清水は眼鏡のずれを直して、しげしげと一読した。
「おう、ええぞ。併しちいと固いな」
清水は紙片に、
「由紀夫」
と認めた。
「どうじゃ。この方が親しみやすいし、憶え易い。第一書き易くないか?」
公威は、
「夫」