剣と日輪
 公威を頻(しき)りに誘う年増女を、矢代は如何にも馴れた手つきで追っ払った。
「あそこは気をつけたほうがいい。病気持ちがいたらしいから」
「そうかい」
 公威は鼻を鳴らした。
「あそこなら比較的安全だぜ。但し顔は落ちるけどな」
「顔?」
 公威は嘲笑(あざわら)った。
「顔なんて、どうでもいい」
「そうか?僕は美人の方がいいがな。ここにするか?」
「うん」
「後で恨んだりするなよ」
「はは。しないよ。じゃ例の居酒屋で」
「分かった」
 二人は肩を並べて、バラック小屋の玄関口に座している妖艶な二人の娼婦の前に進んだ。
「いらっしゃい」
 二人は立った。背高の女郎が東北訛で、
「どうぞ」
 と公威に付いた。公威は女郎に従い、天井が極端に低い三畳の小部屋に入室した。妓女は金を受け取ると、金歯を見せて、
「一寸待っててね」
 と出て行った。
 やがて戻って来ると、
「お客さん、学生?」
 と場を濁しながら、脱衣し始めた。
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