AVENTURE -君の名前を教えて-
あ、もうこんな時間なんだ。
ふと腕時計を見て気づく。
1杯ご馳走した後、今度は出会った記念にと彼が1杯おごってくれた。
祭りの事や、この国の事を教えてもらっているうちに、なんとなく意気投合して、気づけば数時間が経っていた。
「1人旅なんて羨ましいな」
彼の言葉に、私の動きが一瞬止まる。
「…どうした?」
ヒョコッと顔を覗き込んでこられ、慌てて手をふった。
「べ、別に…なんでも」
思わずアイツの事を思い出した。
すっかり頭の中からいなくなっていたくせに、急に戻ってきたせいで、思わず顔が引きつる。
あはは、と明らかな作り笑いをする私のほっぺたを、彼はムニンと引っ張ってきた。
「い、いひゃい!」
驚いた私は、彼の手を引き剥がして、うっすらと赤くなった頬をさする。
「もー、何すんのよ」
拗ねたように言うと、彼は楽しそうに笑った。
「お前が変な顔をするのが悪い」
私はため息をひとつつくと、コップに残っていたお酒を一気に飲み干した。