AVENTURE -君の名前を教えて-
「そろそろホテルに戻るわ」

かれこれ飲みはじめてからだいぶたったし、これ以上飲むのはまずそうな感じがしたので切り上げるつもりでそう言った。

「…また、会えるか?」

不意に彼が真面目な顔で聞いてくる。

お酒のせいなのか、緊張のせいなのか。

どちらかはわからなかったが、私は顔が熱くなるのだけはわかった。


…絶対、今顔真っ赤だよ。


さっきまでのおどけた雰囲気がなくなった彼に、私は鼓動が早くなるのを止められなかった。

「…縁があれば」

私の答えに、彼はにっと笑う。

「名前、なんていうんだ?」

言われてハッと気づいた。お互い、まだ名乗ってすらいないことに。

なんとなく可笑しくて笑えた。私はそれならいっそ、と、口の前に人差し指を当てて笑って答えた。

「秘密。縁があれば、ね」

そう言って、その場を後にした。
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