AVENTURE -君の名前を教えて-
「アヤ」

バシン、といい音がバスルーム内に響いた。

「…なんだよ。いいところなんだ。邪魔するなよ」

そっと、アヤの後ろを見てみると、そこには先ほど顔を覗かせていた男の人の姿があった。

「時間が無い。その辺でやめておけ」

そういうと、男の人はぎろりと私を睨み、そのままバスルームから出て行った。


に…睨まれた…!?


蛇に睨まれたかえるのように、私は萎縮する。アヤはぽりぽりと頭をかきながら、小さなため息をひとつつくと、私に絡めていた腕を解いた。

「はいはい、わかった」

そう呟くと、アヤはにっこりと笑って私のおでこに軽くキスをする。

「早く着替えろ」

そう言って、そのままバスルームを出ていった。
私はキスされたおでこに手を当て、へなへなとその場に座りこむ。


なんなの?なんなの一体!?


さっきまでのアヤは、今までのアヤとはまるで別人のようだった。
あんなことされたら、私…


思い出すとまた顔が火照る。
心臓はまだ落ち着かなくて、少し、手が震えていた。

「あぁ!もうっ!」

私は叫ぶと、ふん、と鼻をならして立ち上がる。


今のは事故だ、事故。
それに、アヤの彼女のフリしなくちゃいけないんだし、こんなことくらいでうっかり固まってなんていらんない!
そうだよ、あんなことくらいで…


また、アヤの妖艶な笑みを思い出す。

「うーーー!!」

ばたばたと頭の中に浮かんだアヤの顔を追い出す。

「気にするな、私!」
そう、自分に言い聞かせると、私はアヤが用意してくれた着替えを手に取った。



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