ボーイフレンド
タロウのベッドに下着姿で寝ていたからといって、私とタロウとの間に男女間にありがちな惚れた腫れたや色っぽいことがあったわけではない。
飲むと脱いでしまうのは私の悪い癖で、昨日の夜もいつものように着ていた服を脱ぎ捨てて、タロウのベッドに潜り込んだんだろう。
そのままタロウは私に背中を向けて眠りこけ、朝を迎え、今に至るといったところかな。

はっきりそうだと断言できないのは、飲んで愚痴ったまでは覚えてはいるけど、ベッドに潜り込んだことは全く記憶にないからだ。
それでも、いつもバンド仲間で雑魚寝する時は、タロウと私が私たち女メンバーとの間仕切りになるほどで、私とタロウに限っては、万が一の間違いが起こることもないとの自信があった。


イタリアンのシェフというお洒落な仕事のわりに、タロウが住まうこの部屋は6畳一間の木造アパートの一室で、風呂無し、トイレも共同だったりする。
バンドと食事に惜しみ無く給料を注ぎ込んでしまう性格が災いして、タロウは極貧生活を強いられている。
それでも部屋のインテリアなんかは質素なりにセンスはよく、タロウが好きなバンドのポスターやレコード盤。お洒落な調理器具なんかもインテリアの一つになっている。

折り畳み式の小さなテーブルに置かれた鍵を手に取って、ジーンズのポケットに入れながら、私はおもむろに重い腰を上げた。


それから脱ぎ捨てたシャツを着て、辺りを見回し、何かメモの代わりになりそうなものを探す。


そもそもタロウは友達思いで情も深く、友達にしておくには最高のやつだ。
悩みも親身に聞いてくれるし、恋愛に対する相談にまで乗ってくれるほどで、しかし、それはあくまでも友達だからであって。

タロウを男として恋愛対象で考えてみれば、いい加減で口が上手くて優柔不断で。私の女友達にも片っ端から手を出すし、男としては最低なやつだ。
幸い、お互いに好みの対象じゃないから付き合いも続けてはいるが、もしも少しでも惚れた腫れたの感情があればこんなにも長い間、友達を続けていることもなかっただろう。

はっきり言えば、タロウは女の敵なのだ。

できれば自分の女友達をタロウに紹介したくはないし、それは女友達をタロウの魔の手から護るためでもあって。

(続く)
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