君は天使-短編集-
あれはまだ俺が小学生にもなっていない時だったか。
今思えば、俺の親は少しだけおかしな人だった。
俺には父親がいなかった。
物心ついた時からだ。
母親に、なぜ俺に父親がいないのか聞いてみたことがある。
母親は父は旅に出たのだと、ただそれだけ言って、それからもう喋らなかった。
だから俺も聞かなかった。
母親は厳しい人だった。
何かあるたびにすぐに俺を殴った。
何の理由だったかはもう忘れてしまったが、何度も謝ったのを覚えている。
しばらく殴り続けたあと、母親はハッとしたように突然殴るのを止める。
そして俺を抱きしめ涙を流す。
「ごめんね、洋ちゃん。」
そんなことを繰り返していた。
毎日、毎日。