君は天使-短編集-
たしかに…
いつもだったらそろそろ時間が動き出す。
「まだわからないの?」
「何が?」
「ちょっと来て。」
彼女は俺の手を引いて教室の外に走り出した。
「ちょっ…どこ行くんだよ!」
桐山は何も言わなかった。
俺たちは学校の屋上に出た。
「見て。」
彼女は空を指差した。
「雲も鳥も…みんな止まってるでしょ?」
「うん。」
全てが止まっていた。
まるで絵画みたいに。
「あの鳥見てて。」
桐山が指差す先には飛んだ状態のまま止まってしまった一羽のカラスがいた。
俺がカラスを見たのを確認すると、桐山はパチンと指を鳴らした。
その瞬間、カラスは羽ばたき出した。
「…?」
カラスだけじゃない、雲はゆっくりと流れだし、風が桐山の髪をなびかせた。
「時間が…動いた。」
「私が今まであなたの止めた時間を元に戻してたの。」