君は天使-短編集-
俺は気がつかなかったけど、桐山は見てたんだ。
「試しに指を鳴らしてみたら時間が動き出した…それで確信した。」
2つで1つを…か。
「藤くん…」
桐山が初めて俺の名前を呼んだ。
彼女の目はまっすぐに俺の目を捉え、吸い込まれそうだった。
「藤くんにも傷があるんだね?」
「傷…?」
「私はこの能力が防衛本能だと思ってる。私がこの能力を初めて使った時…私は自分の好きなように時間が動かせれば…って思ってた。」
「あ…」
俺は母親のことを思い出した。
「その時の私は…どうしようもない状態で、助けを求めてたの。」
「俺も…!」
思った異常に大きな声が出て、俺は自分の声に驚いた。
「俺も…」
でも、言葉が続かない。
母さんのことを話そうとすると言葉が詰まる。
どうしてだろうか。
わからない。
「いいの。」
桐山が呟くようにいった。
「今言おうとしなくても…いつか話せるようになる。」
桐山のその言葉はまるで、自分に言い聞かせているようだった。