君は天使-短編集-
それに、誰かを待つ時は時間が早く過ぎて欲しいと思うから不思議だ。
そんなこと思ったことがなかった。
「お待たせ!」
桐山が戻ってきた。
「んじゃ、帰るか。」
二人で階段を降りる。
一歩一歩が重みを持ったように感じた。
瞬間が重なっていく。
俺が時間を止めたあの瞬間から、何かが始まったのだ。
止められた時間の中で何かが進み始めたのだ。
きっと桐山の中でも何かが動き出したはずだ。
「桐山って帰り電車?」
「うん。」
「じゃあ急がないと。10分後にくるやつ逃したら次くるの30分後だぞ。」
桐山はポカンとしていたが、急に笑いだした。
「あはは!急がないと…かぁ。」
「…なんだよ!」
「じゃあ近道していこっかぁ。」
近道…
「駅までにそんなのあるのか。俺、近道とかしたことない。」
「だろうね。」
桐山はまた笑った。
俺も一緒に笑った。
二人で駅まで走る。
急ぐってのも悪くない。