図書室ではお静かに~甘い声は唇で塞いで~【完】


『蓮くん?』


その声に驚きが混じっていたけど気にしない。


「おめでとう!美優、やったな!」


大きめの声は室内に響き渡り蓮は口を押さえた。


『・・・・・ありがとう』


美優の恥ずかしそうな声が聞こえて、蓮の口はまた開く。


「今、どこ?」

『えっ?今日はもう帰っていいからって先生に言われて・・・・ってメールに書いたよ?』


推薦の合否は各高校に連絡され、それを生徒に伝える。

そして、周りの生徒に影響を与えないように、その日、合否を知らされた生徒は、短い説明を受けて帰宅するのだ。

蓮はそれを美優から聞かされていたし、メールにもその旨は書かれていた。

だから、敢えて聞く。


「だから、どこ?」

『今、渡り廊下だけど・・・。て、蓮くん授業中だよね?』


蓮は見なくても首を傾げる美優の顔が浮かんだ。


「俺、今、図書室。来ねぇ?」

『えっ、だって、あれ?授業・・・えっ?』


蓮は人の足音に気づき、本棚に身を隠した。

ゆっくりと開けられるドア。

それは廊下につながるドアではなく、司書室からのドアだった。


「誰かいるの?」


司書の事務員の声が響く。

蓮は携帯を耳に当てたまま息を潜めた。

事務員はしばらく辺りを見回してそのまま司書室に消えていった。

それを確認して蓮はまた口を開く。


「来て」


小さな声で短く。


『・・・う、うん』


美優の戸惑う声が耳に響いた。





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