図書室ではお静かに~甘い声は唇で塞いで~【完】
蓮は見知った顔を廊下で見つけ、笑顔を向けた。
「みこっちゃん、美優知らね?」
みことは不愉快さを全面に押し出した顔を蓮に見せる。
「あんた、図書室いなかったの?」
蓮は意味不明な言葉に首を傾げた。
「待ってたんだけど……っかしいな」
もうすぐ、授業が始まる時間に教室に戻っていない美優。
それだけでも、普通じゃない。
「これ以上、美優で遊ぶのやめてくれない?」
みことの言葉に蓮は少し不機嫌な顔で応えた。
「遊ぶ?俺、かなりまじめだけど」
みことは蓮を睨み付けて続けた。
「じゃ、なんで美優以外の女と街中で抱き合ったり、告白してきた後輩を裏路地に連れ込んだりすんのよ!」
蓮の心臓がドクンと大きく脈打った。
「な、に?それ」
ようやく言えたのはそれだけ。
「美優が知らないと思ってんの?」
「あ、いや、抱き合ってってなんの――!」
蓮は口を押さえた。
美優が「帰りたくない」と、言い出したのはいつからだった?
急に甘えるようになったのはいつから?
見られてた!
あの、イブの夜。
『今、一人?』
クリスマスのときのあの台詞。
蓮は目眩を起こしそうなほど、血の気が引くのを感じた。
「篠宮君?」
蓮のあまりの顔色の変化にみことは思わず声を掛けた。
その声に蓮ははっとし、みことに確認した。
「まだ、カバンはあるんだよな?」
「えっ?あ、うん、あるけど」
その返事だけ聞いて蓮は走っていった。