図書室ではお静かに~甘い声は唇で塞いで~【完】

次の瞬間、ガチャンと、重い非常口のドアが開く音に振り向けば、そこには荒木が立っていた。


「な、んで?」


震える美優の声に荒木は優しく笑いかけた。


「俺、日直で前の授業の模型、片づけて無くてさ」


荒木は笑顔のままゆっくりと階段を下りてきた。


「はい」


差し出されたのは真っ白なハンカチ。

美優はそれを不思議そうに眺め、ゆっくり顔を上げて荒木の顔を見た。


「美人が台無し、ほら!」


そう言って、美優にハンカチを無理矢理持たせた。


「あ、りが、と」


美優は途切れがちにお礼を言うと、手の中のハンカチを握りしめた。


「ここ、寒くない?」


荒木のその台詞に美優は俯いて首を横に振った。


「…‥なのに、ごめんね」

「なに?」


その声を聞き取ることが出来ず、荒木は美優に顔を近づけて聞き返した。


「授業中なのに…ごめん、ね。教室に戻って?」


その台詞に荒木は少し寂しそうに笑う。


「こんな相原さん置いて帰れないよ。ここ寒いから、中に入ろ?」


荒木はゆっくりと美優の手を引っ張った。

それだけで、美優の体はグラリと揺らいでしまう。


「ぅわっ!」


荒木は咄嗟に美優の体を抱き留めた。

想像以上に細い腕が体にぶつかる。

絹糸のような漆黒の髪が指をすり抜けて・・・・・・。


「あっ、ありがと」


見上げたその目は、泣きはらし真っ赤になっていた。



荒木は唇を噛みしめた。




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