図書室ではお静かに~甘い声は唇で塞いで~【完】


「あ、ありがとうございます」


美優は振り返ったヒロキに深々と頭を下げた。

ヒロキはひとつため息を付いて口を開く。


「なにしてんの、一人で…って」


ヒロキは自分の台詞に違和感を感じ、顔を歪ませた。


「蓮は?」


ヒロキの口をついて出てきたその名に美優は体を強ばらせた。


その反応に目をそばめてヒロキはタバコに火を付け、紫煙を吐き出した。


「少し話そうか?」


美優は黒髪をゆらし、ヒロキの目を真っ直ぐ見据えた。


「あの、under the groundって知ってますか?」


彼女の格好から似合わない単語にヒロキは顔をしかめた。


「知ってっけど…?」

「場所、教えて下さい!」


その真摯な目に押されるようにヒロキは一瞬、息をのんだ。


「いや、ってか、なんで?」


理由を聞かれ、美優は躊躇するように視線を地面に落とす。


「…蓮くんがそこに居たって」


小さな声にヒロキは身をかがめた。


「蓮?」

「家にも帰って無くて、学校にも来なくて、あたし、信じてあげられなくて…」


その声は震え、落ちた涙はアスファルトを濡らす。

ヒロキは静かに美優を自分のコートに包んだ。


「その格好じゃ、店には入れねーけど、一応行ってみるか?」


美優は流れる涙をそのままに見上げ、コクンと頷いた。


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