図書室ではお静かに~甘い声は唇で塞いで~【完】




通りには多くの人が行き交う繁華街。

人とすれ違う度にぶつかり、転びそうなる美優をヒロキは抱き寄せ歩いた。

上等なカシミアのコートはとても暖かい。

けれど、それでも美優の涙を止めることはなかった。


「家、どこ?」


短いヒロキの質問に美優は首を振って答えた。


「そんな顔で電車には乗れないでしょ?」


ため息混じりの言葉に美優は俯いたままなにも言えなかった。

ヒロキは美優をつれたままパーキングに入った。


「乗って」


助手席のドアを開けられ美優はヒロキの顔を見た。


「送るから」


そのやさしい声に、そのやさしい笑顔に美優は涙を抑えることが出来なかった。


「ご、めん、なさぃ」


地面を涙で濡らす美優をヒロキは抱きしめた。


「美優を泣かせる蓮の方が悪い」


優しい言葉に美優は首を振った。


「ちが、っう。信じてって、蓮、くん、言った、のに」


嗚咽混じりの声にヒロキはやさしく髪を撫でた。


「それでも、手放す蓮が悪い」


美優はヒロキの胸にしがみついた。


「あたし、が、違う、手を、とったから」


ヒロキはそれを受け止めて、抱きしめる手に力を入れた。


「そうさせた蓮が悪い。蓮の代わりに謝るよ」


優しい声が美優に降り注ぐ。




「ごめんな、美優」




何度も繰り返し降り注ぐ声に美優は蓮を重ねた。




「ごめんね、蓮くん」




そうつぶやく美優の髪をヒロキはやさしく何度も撫でた。


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