図書室ではお静かに~甘い声は唇で塞いで~【完】
住宅街に1台の車が低いエンジン音を伴い止まった。
「ありがとうございました」
黒髪をゆらし、美優は頭を下げた。
ヒロキはその頭をポンポンと二回たたき「いいよ」と笑うだけ。
美優は顔を上げた、何か言いたげに視線をヒロキに向けた。
ヒロキは魅惑的な笑顔を向けて美優に言う。
「伝言、しようか?」
美優は少し困ったように笑みを作り、コクンと頷いた。
「もし、会ったら…」
そこまで言って口をつぐんだ。
美優は膝の上の手をきつく握り、もう一度口を開く。
「自分で伝えたいから、
図書室で待ってるとだけ伝えて下さい」
目は赤く、瞼は腫れているのに、笑みを浮かべる彼女の顔。
美優が車を降り、ヒロキはアクセルを踏んだ。
窓を開け、タバコをくわえ、それに火をともす。
外気は冷たく、車内は一瞬で冷気に覆われる。
ヒロキは大きく息をはいた。
紫がかった煙とともに。
「なにやってんだ、あの馬鹿弟」
そう吐き捨てるとヒロキは更にアクセルを踏んだ。