図書室ではお静かに~甘い声は唇で塞いで~【完】
図書室ではお静かに
梅は散り、桜の枝はピンク色を帯び始める。
テレビでは五月蠅いくらいに桜の開花日を予報する。
3月1日。
卒業。
美優はいつものように駅に降りた。
もう、コートは要らない。
それでも指先は冷たく、美優は両手を口の前で会わせて暖める。
今日で最後。
そんな思いが心を占める。
通い慣れたこの道も通ることは無いかもしれない。
美優は左手で髪をかき上げ、耳にかけた。
そして、歩く。
いつもよりざわめく教室。
「おはよう、美優」
みことの声に美優は笑顔で返す。
「おはよう、みことちゃん」
「なんか、今日で最後だなんて、実感湧かないね」
その台詞に美優は苦笑いを浮かべた。
実感があるから。
覚悟があるから。
そっと、スカートのポケットに手を忍ばせ、指で確認する。
小さな丸いそれ。
チャイムが鳴り、担任が教室に入ってきた。
全員がガタガタと席に着くと始まるのは、長い担任の言葉。
けれど、やさしい先生の言葉も美優の心には響かない。
しばらくすると、すすり泣くような声すら聞こえて来るのに・・・・・・。
美優はポケットの中の手をにぎりしめる。
まだ、泣くわけにはいかなかった。