図書室ではお静かに~甘い声は唇で塞いで~【完】

パスケースを改札口にかざし、通り抜ける。


-美優は?-


ラッシュと言うほどではないがそれでも人が多い。

頭を左右に振って、美優を探す。


目印は、漆黒の長い黒髪。



-いた!-


電車がホームに入ってきた。

その黒髪が風になびく。


「美優!」


電車が止まり、ドアが開いた。

振り返った美優は人の波に流されるように、電車の中に入っていった。

蓮は人をかき分け美優の元へ。

美優は入口で手すりを握り、人並みに逆らっていた。


「美優」

「蓮くん」


見上げた彼女の顔には笑顔はない。

蓮の背中で閉まるドア。


「あっ」


慌てて声をあげる美優に「いいんだよ」と少し荒い息で蓮が言う。


「だって、」


美優がドアに手を当てた。

けれど、勿論そのドアが開くことはない。

蓮はそのまま美優の後ろに立った。

美優の前にはドア、後ろには蓮。

誰にも触れられないように、隠すように・・・・・。


「蓮くん?」


不思議そうに蓮を見上げる。

蓮は視線を窓の外に移した。

ガタガタと音を立てて走る列車。

電車が揺れる度にお互いの体がくっついたり離れたり・・・。

その度に蓮の心臓が大きく鼓動する。

自分の心臓の音が頭に響く。



-どうか、美優には聞こえませんように-



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