図書室ではお静かに~甘い声は唇で塞いで~【完】
蓮はわざと足音を立てた。
美優とその男が蓮を振り返る。
「蓮くん」
小さな声でささやき、さっきと同じ笑顔を浮かべる。
蓮は男を睨み付けた。
男は小さく息をのむと、逃げるようにその場からいなくなった。
「どぉしたの?」
美優が驚いたように瞬きをして首を傾ければ、漆黒の髪がつられて流れる。
「何やってんの?」
蓮は低い声で聞いた。
「本を探してたの。あたし、去年は図書委員だったから」
小さな声でも聞こえるように、美優は連に近づいて来る。
いつもと同じ笑顔を浮かべて。
「違うだろ?」
そんな笑顔を見ても、蓮の表情は晴れない。
「えっ?本当に去年・・・」
「だから、さっきの!違うっつてんだろ?」
急に荒げた声に美優の表情から笑顔が消える。
「蓮くん?」
美優はあたりを見回して、唇の前で人差し指を立てる。
いつもの仕草。
蓮は美優から視線を逸らした。
「ムカつく」
小さくつぶやく。
「えっ?」
美優が蓮の顔をのぞき込んできた。
心配そうな顔で。