図書室ではお静かに~甘い声は唇で塞いで~【完】
蓮は行き慣れた階段を下りる。
地下からは耳を劈くような音楽が流れてくる。
木曜日だというのに今日は人が多い。
蓮はカウンターに行き、ジーマを注文しワンコインと引き替えに瓶を受け取った。
「蓮!こっち!」
手を振る新に軽そうな女が3人。
「これが篠宮蓮でーす」
「どーも」
蓮はいつもの愛想笑いで対応する。
それから、新は女の名前を一人づつ紹介していくのを蓮は適当に笑顔で聞いていた。
「しっかし、今日多いな?」
蓮が隣の祐介に聞く。
「あぁ、下。あいつが来てるから」
祐介は吹き抜けの下にあるビリヤード台を指さした。
そこには漆黒の髪をもつ男が目に入った。
顔は見なくても分かる。
「篠原ヒロキ」
蓮はつぶやいた。
このあたりでは有名な男。
作家でモデルで、でも大学生。
ルックスは男の蓮から見てもかっこいいと思わせる。
「蓮くん、知り合い?」
女の一人が声を掛けてきた。
「ちょっとだけ」
蓮は条件反射で笑顔を作った。
ここで女を引っかけては、あいつにさらわれていった。
いや、女が勝手に向こうに行ってしまう。
あいつはいつも不敵な笑みを浮かべるだけ。
蓮が叶わない唯一の男。
「かっこいいよね?あっ蓮くんもかっこいいけど」
女は慌てたように付け加えた。
「ありがと」
蓮は女を見ることなくそういって、下にいる男を見ていた。
いつもながら、取り巻く女の数は多い。
けれど、すぐそばにいる彼女。
それだけが、異様で・・・・・。
化粧のケバい女じゃなくて、至って普通の彼女。
特に美人でもなく、すんごい可愛いわけでなく・・・・・。
特徴的なのは、一際大きな瞳。