図書室ではお静かに~甘い声は唇で塞いで~【完】
第3巻

つながるために必要なもの


駅に向かって、電車に乗って二つ目の駅。

そこから歩いて3分。

蓮は一軒の家の前で立ち止まり見上げた。

昨日も来たこの場所で蓮は携帯を眺めた。

時刻は10時過ぎ。

さすがにチャイムを押すわけにもいかず、蓮はただ二階の窓を眺めた。

かすかに動く人影。

その人影は立ち上がり長い髪を揺らした。


「美優!」


思わず口にした声に反応して影の動きが止まる。

カーテンがゆれ、そのスキマから美優の黒髪が見えた。


「美優!」


もう一度呼ぶ。

カーテンが開けられ、美優の驚いた顔がそこから見えた。

出窓が開けられ、美優の髪が夜風に揺れる。


「蓮くん?」


その声が蓮に響く。


「どうしたの?」


聞こえるか聞こえないかのギリギリの声。

蓮はただ、笑顔を美優に向けた。

美優は窓を閉め、カーテンも閉じた。

その部屋の明かりが消える。

しばらくして、ショールを羽織った美優は玄関のドアから出てきた。

初めてみる私服の美優。

マキシ丈のロングワンピにカーデを羽織り、その上にピンクのショール。


「どこ行くの?」


中から聞こえてくる母親らしき優しい声。


「ちょっと、コンビニ」


美優はそう言うとドアを閉めた。

< 80 / 205 >

この作品をシェア

pagetop