MAO【BL】
マオの目にはちゃんと俺が映っていて、無表情だったのがいつもの無垢な笑顔に変わっていた。
「マオ……?」
俺に背を向ける形で立っていたマオが、くるりと身体の向きを変えた。
もしかして、俺の早とちりだった……?
そんな淡い期待が、俺の胸を過る。
あまりに必死だったから普段と違いすぎる顔だったのだろう、俺の顔を見て、マオは再度微笑んだ。
それはもう、柔らかに。
今まで見てきたマオの中で、一番綺麗だった。
……あれ?
なんだ、やっぱ冗談?
だって、いつものマオじゃん──
刹那、時が、止まった気がした。
「ありがとう、さようなら」
真っ青な空がマオの後ろには広がっていて、暖かな日射しに照らされたその姿はあたかも天使のようで──
ふわりと。
マオは、飛んでいった。
何で、どうして、あの時俺は、マオを追い掛けていかなかったのだろう。
俺は動けなかった──否、動かなかったのか。
それに、マオを追い掛けてはいけない気がしたから。
「マオ、マオ……ッ!」
時が、再び流れ始めた時。
俺はただ、もうこの世界に存在しない彼の名を、叫ぶことしか出来なかった。