恋がしたくて…
大きな手
「マジぃ~!?その日、出張かよ~!」
と、オフィスの隣のしまから、佐々木さんの声がした。
佐々木さんの大声は いつもの事なので、気にもとめずに、入力を続ける。
ところが、
「ミスチル 2列目とれたのによぉ。行けないのかよぉ~。」
という声に キーボードをたたく手が止まる。

「佐々木さん!ミスチルのチケット 持ってるんですか!?それって 横浜国際ですよね?」
と、佐々木さんより大声で叫んでしまった私。

「あ、あぁ。持ってるよ。」
と、驚いたようにこたえる佐々木さん。
驚いた理由は、私の大声ではないだろう。

唐突に。
いきなり。
そう。初めて私が 佐々木さんに 話しかけた事に 驚いていたのだろう。

「よかったらそのチケット譲って下さい。そのライブ。すっごく行きたかったんです!」
と、電話予約で繋がらなかった悔しさを思い出しながら、佐々木さんに歩み寄った私。

「あぁ。いいよ。どうせ俺 出張だし。」
と 笑顔でこたえてくれた佐々木さんを見て、初めて
話した事もない人だったのに、図々しかったかな?
と、少し 反省した。

でも恥ずかしくはない。

どうでもいい人だから。

チケットさえ 手に入ればいい。

そんなふうに思ってた。



< 8 / 150 >

この作品をシェア

pagetop