戦国千恋花
ようやく話ができるほど落ち着いたとき、(といっても会話はできないが……)
その優しい人は、私が此処にいる経緯を説明してくれた。
どうやら私は戦場で倒れていたらしい。
傍には年若い少年兵の亡骸があり、
私は彼に覆いかぶさるように気を失っていたようだ。
――そう、まるで彼を護るように。
今も私の手を握り、
私が怖がらないように少しずつ話してくれる彼は、
私がまだ生きているのを確認すると、
家臣に命じて連れ帰ったそうだ。
私は4日も眠ったままだったと教えてくれた。
なんとなくだが、これは夢ではないのだと実感した。
この掌の暖かさが証拠だ。
そういえば、彼の名前を聞いていない。
私はなんとか彼の名前を聞こうとするが、声は出ないし、
筆談しようにも紙とペンもない。
どうしようもないことだが、
手ぶらで来たことを悔やんだ。
そうだ……!
私は彼の手をとり、掌に指で文字を書いた。
『あなたのなまえ』
彼は読み取ってくれたようだ。
しかし彼は、すぐには答えようとしなかった。
やや経って、
「俺の名は………慶次、だ。」
私の瞳を見ずに、そう答えた。