戦国千恋花
いつもの通学路

いつもより少し早い時間

今日は数学の小テストと朝から体育の授業か。

まぁ今日が終われば明日は休み。

また一日を平和に過ごそう。


朝の冷たく澄んだ空気を吸いながらゆっくりと歩いていると、

十字路の角から曲がってきた車が
こっちに向かってくる。
すごいスピード

ガードレールのない細い歩道。

逃げ切れるはずもないし
体も動かない。


私の身体は木の葉のように天高く舞い、

元居た場所から数メートル飛ばされた。


景色が霞む。

世界が朱い色をなしてきた。

―…あぁ、これが死か。
何故か痛みはない。

きっと今身体は酷いことになっているだろうに。
いつの間に外に出たのだろう。
私のすぐ横には、朝ポケットに入っていた

花のかんざしがあった。
俯せになった身体を引きずり、
最期の力で
そのかんざしを掴んだ。

まだ冬だというのに、

暖かい風が吹いた。


花のかんざしからは

春の匂いがした。


その薫りで、私は忘れていた想いを思い出した。

まだ知らないはずの、

だけど
とても大切な記憶を…。

「…け……い…じ…」


また、逢えるよね…?

もう眼はみえない

もう何も聞こえない

もう感覚もない


――…『無』こそが「死」


からっぽの私の身体は

暖かい雪でみえなくなっていく。

あの日も、こんな雪だったね。


あなたが消えた、あの日も……―――
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