桜の咲く頃 ~君に~


ならいっそ止まないでほしい。


雨が止んで空が晴れても、


私の心は晴れないから。


雨が降っていれば


このみすぼらしい姿を全部


雨に濡れているせいだと錯覚できる。


雨が降っているせいだと錯覚してもらえる。


そんな気がしたのに、


雨はフッと止んでしまった。


私の上にだけ雨が降っていない。


「えっ?」


顔を上げると高校生ぐらいの男の子が立っていた。


「何やってんの?」


甘くて優しげな声。


そんな声で話しかけないでよ…。


慣れてないから何も答えられないじゃん。


「ん?ねぇ、どしたの?」


話しかけないでよ…。


「大丈夫?」


それ以上話しかけないで……。


「家は?」


ほら着た。

< 8 / 79 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop