涙の宝器~異空間前編
決断
涼は病室にいた。
室内では医療機具を身に纏(まとわ)され、ベッドで横たわる麻衣がいた。
彼女の容態は意識不明の重体だった。
その麻衣の元で、ただ立ち尽くす涼の表情は荒(すさ)みを帯びている。
薄暗い病室で彼女の手元に手を伸ばすが、その手をしっかりと握ることができなかった。
これは面会時間をとうに過ぎた深夜のやりとり。
一体これは何だろうか。
突如として彼の胸から小さく緑に光る玉が宙を舞い、それによって照らされる彼自身の姿。
とても普通ではない傷だらけの姿がそこに浮かび上がる。
置かれている電子時刻は十二月二四日午後十一時を示していた。
涼はその電子時刻の傍に小さな花を手向けた。
一ヶ月も静かに眠り続けながら麻衣はこんなにも穏やかな表情を崩さないでいる。
涼は彼女のもとへ来てから一言も発しないまま、涙を堪え続け微量の電流を帯びながら消え去った。
一方、同時刻前後。
ここは古びたビルの屋上。
フェンスに肘を添えて考え込む男。
男は疲れた表情で長いこと佇んでいた。
ようやく気を取り戻したかのようにスマホを手に取った。
画面の時刻は十二月二四日午後十時五七分を表示。
アルバムのアイコンをタップして開くと、一つのフォルダから麻衣との思い出の写真が溢れた。
その中から動画を開いた。
二人はボーリングを楽しんでいた。
お互いにストライクを決めたりガーターで落ち込んだり。
スコアの表示も五分五分といったところだった。
動画を見て懐かしみながら笑みがでてしまう。
この男はこの頃の元気な麻衣を失った涼その本人だ。
あれから何度かこの場所に足を運んだが来るのはこれで最後にする事にした。
午後十一時の表示と同時にスマホの画面がブラックアウトした。
「ん?なんでだ。」
数秒後、点滅を繰り返しながら画面が復旧した。
時刻は十二月二四日午後十一時。
涼はホッとしたようにため息を吐いてスマホを締まった。
ここは病院から二キロ圏内にあるビル。
涼は二度とこのビルには足を運ばない事を決意し後にした。
【全ての始まりは、一ヶ月前のあの夏祭りから引き起こされた】
一ヶ月前、午後七時。
神社の夜店通りが賑わう。
この日は涼と麻衣が交際してから二人にとって初めての夏祭りとなり、夜店通りの手前に立つ石像を目印にそこを待ち合わせ場所にしていた。
涼は甚平、麻衣は浴衣で揃える手筈。
賑わいの鼓動が先着した彼の緊張感をさらに刺激した。
表情には隠すような笑み。
それは幸福を覚える一時となった。
だが。
室内では医療機具を身に纏(まとわ)され、ベッドで横たわる麻衣がいた。
彼女の容態は意識不明の重体だった。
その麻衣の元で、ただ立ち尽くす涼の表情は荒(すさ)みを帯びている。
薄暗い病室で彼女の手元に手を伸ばすが、その手をしっかりと握ることができなかった。
これは面会時間をとうに過ぎた深夜のやりとり。
一体これは何だろうか。
突如として彼の胸から小さく緑に光る玉が宙を舞い、それによって照らされる彼自身の姿。
とても普通ではない傷だらけの姿がそこに浮かび上がる。
置かれている電子時刻は十二月二四日午後十一時を示していた。
涼はその電子時刻の傍に小さな花を手向けた。
一ヶ月も静かに眠り続けながら麻衣はこんなにも穏やかな表情を崩さないでいる。
涼は彼女のもとへ来てから一言も発しないまま、涙を堪え続け微量の電流を帯びながら消え去った。
一方、同時刻前後。
ここは古びたビルの屋上。
フェンスに肘を添えて考え込む男。
男は疲れた表情で長いこと佇んでいた。
ようやく気を取り戻したかのようにスマホを手に取った。
画面の時刻は十二月二四日午後十時五七分を表示。
アルバムのアイコンをタップして開くと、一つのフォルダから麻衣との思い出の写真が溢れた。
その中から動画を開いた。
二人はボーリングを楽しんでいた。
お互いにストライクを決めたりガーターで落ち込んだり。
スコアの表示も五分五分といったところだった。
動画を見て懐かしみながら笑みがでてしまう。
この男はこの頃の元気な麻衣を失った涼その本人だ。
あれから何度かこの場所に足を運んだが来るのはこれで最後にする事にした。
午後十一時の表示と同時にスマホの画面がブラックアウトした。
「ん?なんでだ。」
数秒後、点滅を繰り返しながら画面が復旧した。
時刻は十二月二四日午後十一時。
涼はホッとしたようにため息を吐いてスマホを締まった。
ここは病院から二キロ圏内にあるビル。
涼は二度とこのビルには足を運ばない事を決意し後にした。
【全ての始まりは、一ヶ月前のあの夏祭りから引き起こされた】
一ヶ月前、午後七時。
神社の夜店通りが賑わう。
この日は涼と麻衣が交際してから二人にとって初めての夏祭りとなり、夜店通りの手前に立つ石像を目印にそこを待ち合わせ場所にしていた。
涼は甚平、麻衣は浴衣で揃える手筈。
賑わいの鼓動が先着した彼の緊張感をさらに刺激した。
表情には隠すような笑み。
それは幸福を覚える一時となった。
だが。