涙の宝器~異空間前編
口が勝手に動いた。

「あの、今何時ですか?」

涼はとっさになぜかそう問いかけた。
女性もとっさに反応して腕時計を見た。

「十一時です」

「ありがとうございます」

何だこのやりとりは。
またすぐに話しかける。

「待ち合わせですか?」

「はい」

「彼氏ですか?」

「いや、友達です」

ナンパを臭わせるような涼の行動。
だか、それ以上のことは聞かなかった。
しばらくして、妙な胸騒ぎを感じ始めていた。
涼は女性の顔を伺うように見ていた。

それはデジャブから来るものなのか、彼は踏み出したかった。

「あの、どこかで会いませんでした?」

とてつもなく馬鹿なことを言っていると思いながらも確信がないわけでもない。

顔、声、雰囲気など、彼の記憶を駆け巡りながら面識がないという決定をゼロ%にする事はなかった。
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