蹴球天使
「あぁ」
声のトーンが低くなる。
まだ諦めた訳じゃないんだ。
いや、諦めたつもりなのに諦めきれないんだ。
「あのさ、モデルの仕事もう一度やってみない?」
この一言で、なんでシイが歌手デビューのことをなんでわざわざ報告に来たのかはっきりとわかった。
「ない」
「サッカー、やりたいから?」
「あぁ」
だけど本当はもうコートに立つつもりはないのかもしれない。
諦めきれなくてももうコートには立てないかもしれない。
「モデルやってたカイくんは輝いてたのに」
「ごめん、俺やっぱりサッカーが大事なんだ。」
シイがまだあのことを気にして、引きずってそれでまたここに来たということも分かった。
「じゃあ私達はもう一度やり直せないのかな?」
「俺さ、シイのこと大好きだったし大好きだけど、もうシイの好きな俺には戻れないと思うんだ。」
「カイくん、わかってないな。
だけどやっぱりカイくんはサッカーで輝くほうがらしいよ」
「ありがと、だけど俺もうコートに立たないかもしれない」
言ってることが矛盾しているのは自分でも分かる。
大事とか言っておきながら結局もうコートに立つつもりはないんだ。
「そっか」
その“そっか”はなにかを悟ったように、すべてわかったかのように聞こえた。