黒猫-私の部下-
両手をポケットに入れ部屋を出る。
「何処行ってたんだ!?」
いきなり西野課長に大きな声を出されて、冷や汗を掻いた。
「他に荒らされた形跡が無いか部屋を見て回っていました」
咄嗟の嘘。
バレたら元も子もないからな。
西野課長は優しく微笑み、
「感心だな」
褒めてくれた。
「ポケットに手なんか入れて寒いのか?」
僕の手元を見て心配そうに言った。
「はい」
そういう事にしておこう。
「ホットレモンは中から温めてくれるぞ」
お婆ちゃんの知恵袋のようだ。
その言葉は喉で詰まった。
「被害者の死因は首を絞められただけですか?」
話題を変える。
西野課長は頷く。
「鑑識からの報告で指紋が無い事も解った。被害者の手からは皮膚や血液の検出はされなかった。犯人が拭き取ったのだろう。計画的な犯行だ」
「馬乗りになって首を絞めたんでしょうね」
「多分な。足をばたつかせたんだろう、両足の踵が切れてる」
森岡春奈の踵を見る。
「本当だ」
立ち上がる時に森岡春奈の顔が視界に入る。
死んでいる森岡春奈と目が合った気がした。
その目は僕に訴えているようだった。
私の宝石を返して、と。