モザイク
次第にブロックの範囲は大きくなっていく。さっきまでハッキリと見えていた線路も、少しずつ消えていく。
それは長年運転手をやっていた者の、経験からの行動だった。この先にあるカーブに、こんな状態で入っていけるものではない。まだ、かろうじて存在を確認できるブレーキレバーに手をやった。
そしてブレーキをかけた。ただ、加減がおかしかった。全てがモザイクとなってしまった運転手の世界は、力加減を制御するのも難しかったようだ。
車両はものすごい轟音を立て、その巨体を停止させようとした。が、間に合わず線路からはずれていった。
カナたちは、これに巻き込まれたのだ。
「・・・。な、何だ?」
頭を押さえながら、車掌は言った。額からは血が出ている。そして、側にある取っ手にも血がついている。きっと、そこにぶつけたのだろう。
車掌室から客車の様子を伺った。人数こそ少ないものの、何人かの乗客が倒れている。ただ事ではない様子だ。慌てて運転席に連絡を取る。
呼び出しているが、運転手はいっこうに取る様子はない。
「おいっ、どうしたんだよ。」
受話器に悪態をついてもしかたがない。直接、運転席に向かう事にした。
「大丈夫ですか?大丈夫ですか?」
声をかけながら、前の車両へと進む。ただ、車掌ひとりでどうこう出来る人数ではない。様子を確認するだけにとどまった。
一両、二両・・・。今までにも歩いて運転席まで行った事はあるが、今日ほど距離が長く感じられる事はない。精神的不安、肉体的苦痛、それらが融合し車掌にそう思わせた。
「助けて・・・。」
車掌が歩いていると、時折このように言われ制服の裾を掴まれる。これもなかなか前に進めない要因のひとつだった。
「少しだけ待って下さい。」
屈み、声をかける。自分で「大丈夫ですか?」と訊きながら、なんとも情けない返事しか出来ない。やるせなかった。
何とか運転席に辿り着いた。
すると、運転手はうつ伏せに倒れていた。
「おい、大丈夫か?」
車掌は抱え起こそうとした。両手を身体に回し、持ち上げた。すると、違和感を腕に感じた。人は柔らかい。車掌もそう思っていた。しかしだ。抱き上げた感触は異常なまでに固い。
<ん・・・?>
運転手の顔をのぞき込んだ。
「なっ?」
それは長年運転手をやっていた者の、経験からの行動だった。この先にあるカーブに、こんな状態で入っていけるものではない。まだ、かろうじて存在を確認できるブレーキレバーに手をやった。
そしてブレーキをかけた。ただ、加減がおかしかった。全てがモザイクとなってしまった運転手の世界は、力加減を制御するのも難しかったようだ。
車両はものすごい轟音を立て、その巨体を停止させようとした。が、間に合わず線路からはずれていった。
カナたちは、これに巻き込まれたのだ。
「・・・。な、何だ?」
頭を押さえながら、車掌は言った。額からは血が出ている。そして、側にある取っ手にも血がついている。きっと、そこにぶつけたのだろう。
車掌室から客車の様子を伺った。人数こそ少ないものの、何人かの乗客が倒れている。ただ事ではない様子だ。慌てて運転席に連絡を取る。
呼び出しているが、運転手はいっこうに取る様子はない。
「おいっ、どうしたんだよ。」
受話器に悪態をついてもしかたがない。直接、運転席に向かう事にした。
「大丈夫ですか?大丈夫ですか?」
声をかけながら、前の車両へと進む。ただ、車掌ひとりでどうこう出来る人数ではない。様子を確認するだけにとどまった。
一両、二両・・・。今までにも歩いて運転席まで行った事はあるが、今日ほど距離が長く感じられる事はない。精神的不安、肉体的苦痛、それらが融合し車掌にそう思わせた。
「助けて・・・。」
車掌が歩いていると、時折このように言われ制服の裾を掴まれる。これもなかなか前に進めない要因のひとつだった。
「少しだけ待って下さい。」
屈み、声をかける。自分で「大丈夫ですか?」と訊きながら、なんとも情けない返事しか出来ない。やるせなかった。
何とか運転席に辿り着いた。
すると、運転手はうつ伏せに倒れていた。
「おい、大丈夫か?」
車掌は抱え起こそうとした。両手を身体に回し、持ち上げた。すると、違和感を腕に感じた。人は柔らかい。車掌もそう思っていた。しかしだ。抱き上げた感触は異常なまでに固い。
<ん・・・?>
運転手の顔をのぞき込んだ。
「なっ?」