モザイク
旧知の天才
脱線が市民病院の近くで起きたのが、せめてもの救いだった。そして乗客が少なかった事も幸いしてした。今回の事故の被害者たちは、皆、市民病院にかつぎ込まれていた。
しかし、さっき起きたばかりの事故を、丹沢たちが知る由もなかった。
「なんだ・・・。これ・・・。」
いくら少ないとは言え、列車事故だ。待合室には血だらけの乗客たちが何人もうずくまっていた。
「どうかしたんですか?」
長沢は丹沢に聞いた。
「あ、いや、なんでもない・・・。」
せっかく病院に着いたのに、また別の病院に行こうとは言い出しづらい。
「これって何の声?」
佐々木は周りにいる怪我人たちのうめき声を聞き、気になり尋ねた。
「病院だからな・・・。苦しんでいる人がたくさんいて当然だ。」
意識したわけではない。しかし目の前には、かなりの数の怪我人がいる。無意識に“たくさん”が強く出た。
「ん?何かあったんですか?」
「どうして?」
「いや、今、“たくさん”ってところを強く言ってたから・・・。何かあったのかなって・・・。」
視覚を奪われている分、他のところの神経が研ぎ澄まされているのだろう。
「そ、そんな事ないさ。」
意識すればするほど、変にぎこちなくなる。
「どうかしたんですか?」
長沢も気になったのだろう。佐々木に続いて聞いてきた。
「なんでもない。さぁ、こっちだ。」
右手に長沢、左手に佐々木の手をつなぎ、その場から移動した。

「おう、桜井。」
エレベータで三階に登った。扉が開き、廊下の向こうにいる医者に声をかけた。すると、その医者は駆け寄ってきた。
「先輩。お久しぶりです。」
「下のあれ、いったい何があったんだ?」
「列車事故です。すぐそこの・・・線路がカーブになっているところあるでしょ。あそこで・・・。スピードの出す過ぎってトコですかね?」
「じゃ、あいつらを診察って言うのは難しいかな?」
少し離れた所で待っている長沢と佐々木を見た。
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