モザイク
中は普通の病室と変わらなかった。ただ、いい天気だと言うのに、わざわざカーテンを引いている。それが気になった。
「せっかくのいい天気が、あのカーテンで台無しだな。」
普通、病院のカーテンと言えば、清潔感溢れる白いカーテンだ。例え閉めていたとしても、カーテン越しに光を感じられる。それがこの病室に掛かっているカーテンは、どぎつい紫色のカーテンになっている。
「悪かったな。あれは俺の趣味だ。」
「なるほど。お前の趣味の悪さは相変わらずだな。」
丹沢は笑った。
「お前に、俺の趣味は理解できないさ。それにあんな色にしたのには意味があるんだ?」
「意味?」
このどぎつい紫色のカーテンにどんな意味があるのだ。丹沢は訊いた。
「あぁ、中の様子を知られたくなかったからな。」
「どういう事だ?」
「説明するまでもないさ。患者を診れば、お前もすぐに理解できる。」
神宮寺に促され、患者のところまでやって来た。
「ほらっ。」
ベッドの周りは、更にカーテンで囲まれていた。そのカーテンを引くと、やっと噂の患者に対面できた。
「?」
パッと見、何も普通の患者と変わらないように見える。神宮寺の言葉の意味がわからない。
「もう一歩、前に出て見ろよ。」
納得した。確かにこの患者は隠した方がいい。それくらいに突飛だった。
「これは・・・人か・・・?」
「あぁ。どうやら、さっきよりも症状が進んだらしいな・・・。」
神宮寺は言った。それから桜井に指示をした。
「おいっ、ここに運ばれた時に写真撮っただろう。その写真、丹沢に見せてやってくれ。」
「先輩、こっちに来て下さい。」
桜井は持っていたノートパソコンを開き、写真を表示した。
「桜井、この写真がこの患者だって言うのか?」
「そうです。つい三十分前の写真ですね。」
どうやっても信じられない。何度も目の前の写真と後ろにいる患者を見比べた。
「この写真は・・・まだ人間かもしれないって思える。けど、そこに寝ている?のは・・・人間かどうかもわからない。モザイクの塊だ。」
「先輩、患者さんに聞こえますよ。」
桜井は小さな声で注意した。
「聞こえる?生きているのか?」
「さぁ・・・。」
桜井は首を横に振った。
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