モザイク
「さぁってお前・・・。」
「先輩、この写真に写っているのって、鉄道会社の制服なんです・・・。」
そう言って写真を拡大した。胸に“河田”と書いてあるから患者の名前は河田と言うのだろう。
「それがどうかしたのか?」
「この制服、どうしたと思います?」
「どうしたって・・・。着替えさせなきゃ、治療も何もないだろう・・・。」
「ですよね。でも、違うんです。あの患者さんの身体よく見て下さい。」
桜井に言われるがまま見た。すると、患者の身体のモザイクの色と制服の色がまったく同じだと気がついた。
「もしかして・・・。」
「そのもしかしてです。着ていた制服が徐々にモザイクになってしまったんです。」
「そんな事って・・・あり得るのか?」
「あり得る、あり得ないは関係ないですよ、先輩。事実はここにあるんですから。」
確かに桜井の言う通りだ。しかし、衣服まで症状が現れるとなると、これはすでに医者の出る幕ではないようにも感じた。
「そうかもしれないが・・・。ただ、こんなの俺たちがどうこう出来る問題じゃないだろう・・・。」
「はい、僕もそう思います。でも、神宮寺さんはそう考えてないみたいです。」
「神宮寺らしいと言えば、神宮寺らしいが。」
天才と言うのは、人とは違う物の捉え方をするものだ。今回も考えがあっての行動なのだろう。ただ、それを丹沢は理解できなかった。

「くそっ。まただ。」
そう言って、神宮寺は何かを床に叩きつけた。
「どうした、神宮寺?」
神宮寺は叩きつけた物を拾い、丹沢に見せた。
「これを見てくれ。」
差し出したのは聴診器だ。
「おい、お前・・・。」
「あぁ、せめて心音だけでも確認できればと思っているんだが、患者に触れた途端にこうなっちまう。」
聴診器の先がモザイクになっていた。
「そうなると使えないのか?」
丹沢は聞いた。
「いや、試していない。しかし、こうなったものが正常に使えるとは思えないが・・・。」
「試してみていないのならわからないだろ。ちょっと貸して見ろ。」
これまでのモザイクの振る舞いを考えると、どうも触れた物に感染していくようだ。そう考えた丹沢は当たり障りがないもので、聴診器の様子を確認した。
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