モザイク
嘘と真実
父親はカナに聞きたかった。しかし、怪我をしている娘を前に、まして病院で問いただすのもどうかと思い、家に着くまで黙っていた。
今、ふたりは車を降りた。もう、別に聞いてもいい頃だろう。
「カナ、ちょっといいかい?」
「何、お父さん?」
父親の表情はいつもと変わらない。だから、カナはいつもと同じように答えた。
「カナはなんで市民病院にいたんだい?学校から市民病院までは結構な距離がある。足をくじいて、わざわざ市民病院に行くとは思えないんだが・・・。」
カナは色々な出来事がありすぎて、自分が学校をさぼった?事を忘れていた。そして、カナの父親は学校をさぼったりするのをひどく嫌う。
<あれは・・・現実よね・・・。だから、具合が悪くなった。だから・・・早退した。さぼった・・・んじゃ・・・ないよね?>
必死に自分に言い聞かした。それから口を開いた。
「ちょっと、お父さん・・・。ここで話す事じゃないから、中に入ろうよ。」
ふたりは家の中に入った。

父親はゆっくりソファに腰掛けた。とても神社を営んでいるとは思えないモダンなインテリアだ。
「じゃ、話しておくれ。」
やさしい声だが、どこか威圧感を感じる。そのせいか、カナはひどく喉が乾いた。
「ちょっと待ってお父さん。喉乾いたからさ、ちょっと待ってて。」
基本的にカナと父親は仲がいい。よその家庭の何倍も仲がいいと言ってもいいだろう。ただ、この瞬間だけは苦手だ。父親の独特の威圧感は、いくつになっても慣れない。
「ごめんね。それでなんだっけ?」
あわよくば忘れていて欲しかった。
「市民病院にいた理由だよ。」
「あっ、そうだったね。」
カナの願いは脆くも崩れ去った。
「それで、どうしていたんだい?」
もう逃げられない。信じてもらえるかどうかはわからない。それでも自分の見たままを話すしかなかった。
「お、お父さんさ、モザイクってわかる?」
「モザイク?」
「ほらっ、テレビなんかでやってるでしょ。ニュースとかで目撃者の顔を隠したりって。あのモザイク。」
「あぁ、あれか・・・。あれがどうかしたのか?」
「今朝ね、教室に行ったら、教室の中がモザイクに見えたの。」
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