モザイク
もう行けない
車は病院に向かっていた。
すぐにテレビの中継車が見えてきた。それもさっきよりも台数が増えている。それを見て、カナの父親は事故が思っていたよりも、かなりひどい物だったのだろうと考えた。
「すごいな。」
父親は言った。
「・・・。」
カナは何も言わなかった。
「どうかしたか、カナ?」
「お父さん、車、停めて・・・。」
「病院に行くんだろ?」
「いいから停めてっ。」
カナは叫んだ。その叫びに父親は応えた。
社内にハザードランプの音が響く。
「お父さん、よく見て。」
カナは病院を指さした。
「よく見てって・・・病院をかい?」
言われるがまま目を凝らした。そしてカナの言葉の意味を理解した。
「モ、モザイク・・・。」
「私もあんなのを見たの・・・。」
「あれは本物かい?」
まるで自分の目が信じられない。出来の悪い特撮を見ているような感覚だ。
「あれが本物じゃなかったら・・・なんだって言うの、お父さん?」
「確かにそうだが、こんな事ってあり得るのか?」
父親の中では目の前で起きている事象が、あまりにも理解の範疇を越えていた。そのせいでたどたどしい口調になった。
こうしている間にも病院のモザイクはその勢いを増していく。先にそれに気がついたのはカナだった。
「お父さん、あのモザイク、拡がっているよ。」
「えっ?」
病院の三階辺りだろうか。そこに紫色のカーテンが掛かっていた。その紫がモザイクに変わった。それを見る限り、すごい勢いで拡大しているとわかった。
「お父さん、逃げた方がいいんじゃないかな?」
「そ、そうだな。」
父親はギヤをバックに入れた。
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