モザイク
祈るしか
父親の言ったとおりだった。ただ事ではなかった。テレビは理解しがたい事実を克明に伝えようとしていた。

「カナ・・・。お父さん、目が悪くなったんじゃないよな?」
さっき見た景色、そしてテレビに映っている景色。それらを見ても、なお自身の目を信じられない。それはカナも同じだった。
「わからないよ・・・、お父さん。私も何がなんだか・・・わからない・・・。」
テレビから何かを得ようとしたにも関わらず、逆に混乱を招くだけになるとは何とも皮肉なものだ。
「そ、そうだ。チャンネルを変えてみよう。このチャンネルがおかしいだけかも知れないからな。」
父親はテーブルの上に置いてあったリモコンを取ろうとした。しかし、焦りからだろうリモコンを落としそうになった。
「ふぅ・・・。」
緊張で頭が痒くなった。頭を掻きながらボタンを押した。
「あれっ。あれっ。あれっ。」
いくつかのチャンネルを見てみた。しかし、どのチャンネルも同じだ。モザイクが画面を占領していた。
「カナ・・・。」
「何、お父さん?」
「どうやら、このモザイクは現実らしいな・・・。これだけ確認しても、いっこうに姿を消そうとしない。これが現実でなければなんだって言うんだ・・・。」
「そうだね。」
カナは哀しかった。そして、怖かった。ただ、あまりの事に感情がうまく表現できない。淡々と答えた。

しばらくの間沈黙が続いた。それから何かを思ったのか、父親は急に立ち上がった。
「どうしたの、お父さん?」
「カナ、お父さんはすべき事がわかったよ。」
「えっ?」
「お父さんはこれから祈る。それがお父さんの勤めだと思うんだ。」
「祈るって・・・。それよりどこかに逃げたりした方がいいんじゃない?」
カナは心配そうに言った。父親は言い出したら聞かないからだ。
「どこに逃げるって言うんだい?さっき見た景色より、モザイクは遙かにその範囲を大きくしている。どこに逃げたって無駄だと思わないかい?」
「・・・。でも・・・。」
わからないでもない。しかし、それでもこのままここにいるよりマシなはずだ。カナはもう一度、父親に訴えようとした。その時だ。テレビから叫び声が聞こえた。
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