モザイク
「モザイクってあるだろ?」
「モザイク?」
そう聞いて担任の頭の中には、すぐアダルトビデオの事が頭に浮かんだが、あえて口にはしなかった。
「そう、テレビなんかで犯人の顔とか隠すあれさ。今、俺の見ている景色は全部それなんだ。」
「全部、それって・・・。そんな事あるのか?」
「なんと言われようと事実なんだよ。」
佐々木は叫んだ。
「そ、そうか・・・。すまなかった・・・。とりあえず保健室に行こう。保健室でまず気持ちを落ち着けてから、それから病院に行こう。なっ?」
今までの経験では補えないことが、起きているように思えた。しかし教師として、それを表情に出すわけにはいかない。微妙なぎこちなさが伺えた。
その時だ。教室の後ろからも叫び声が聞こえた。
「い、いやあああああ・・・。」
担任は振り返った。
焦りが募る。
「私も、私も同じ・・・。」
そう言ったのは学級委員でもある長沢だった。佐々木と違い、彼女は優等生だ。とても嘘を言っているようには思えない。大江は長沢のもとに駆け寄った。
「大丈夫か?」
「先生・・・大江先生・・・。」
声だけを頼りに、大江を探した。しかし、佐々木、長沢と次いでおかしな事になっている。そのせいで、教室のざわつきは増していた。だから、位置を掴むことが出来ずにいた。
「先生、どこなの?ねぇ、どこ?」
泣きながらで、声が声にならない。本来ならやってはいけないはずだから、大江は躊躇した。でも、不安がる長沢をこのままにしてくのも問題だ。大江は気持ちを振り切り、長沢を抱きしめた。
「長沢ぁ、先生はここだ。」
その行為で教室のざわめきが、いっそう大きくなったのは言うまでもない。
「先生・・・、先生なの?」
今の長沢には、この感触は不快でなかった。むしろ、不安な心をわずかだが解放してくれるくらいだった。
「先生、教えて。先生は、本当になんともないの?普通に見えているの?」
「あぁ、見えている。」
それから教室を見回した。
「お前と佐々木、それ以外は普通みたいだな。」
様子がおかしい生徒は他に見あたらない。だから、そう言った。
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