モザイク
祈るかのように、もう一度天を仰いだ。もう晴れやかな気持ちになる事もない。ただ、どうする事も出来ない無力感だけが、神宮寺の心を埋めていた。
そして、その心は凍り付いた。

「た、助けて・・・。」
人だ。人が神宮寺に触れた。モザイクの手。その手を見て、心が凍り付いた。
「うわあああああ。」
着ていた白衣を慌てて脱ぎ捨てた。それから素早く後ずさりした。
「よ、寄るな。」
心からそう思った。
「助けて。」
モザイクの手を持つ女は、脱ぎ捨てた白衣に向かっていった。白衣という単一の色が、モザイクの世界で神宮寺を認識させる道標になっていたのだ。地面に広がった白衣に向かって、いつまでも助けを求めていた。
「いったい、何なんだよっ。」
誰に向けての怒りなのだろう。それは神宮寺自身にもわからなかった。ただ、怒鳴らなければ気が済まなかった。

「これじゃ・・・大江ってやつを見つけても・・・もう・・・。」
次に出たのはあきらめの言葉だった。それから来た道を戻った。それしかなかった。俯き、重い足を一歩ずつ進める。
ため息が神宮寺を押しつぶしていった。

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